フリー素材に権利を主張するDMCA申請が悪評隠しに悪用されたと思われる事例

DMCA、デジタルミレニアム著作権法と検索エンジンの関係は様々な問題を抱えています。

前に正式な権利を持っている会社のコンテンツが消されるケースをご紹介しましたが、今回は別の事例です。

提出、受理されたDMCA申請を定期的に見ていますが、違和感がある申請が時々あります。 それを詳しく見ていくと「検索結果に存在する悪評を消すために虚偽のDMCA申請がまかり通っている」事に気づきました。

フリー素材サイトの画像で削除された事例

フリー画像サイトの写真を使ったブログ記事が著作権侵害で検索結果から削除された この記事が話題になっています。 ユーザ投稿型フリー素材サイトにアップされている画像をブログで使った所、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に違反しているとして、そのページが検索結果から削除されたという事です。

結論から書きます。これはフリー素材サイトの問題ではないとわたしは考えます。

今回の画像に著作権上の問題があるのかないのかはわかりません。しかし検索結果から削除されたのは別の意図を含むものだろうと推測できます。

このケースをじっくり見てみましょう。 DMCA申請は全て公開されていますので、でじねこ.comさんに届いた内容も全て確認可能です。 このページで確認しますと、申請はひとつしかありません。そのため、今回の問題はこの申請のことだと考えられます。

この申請の詳細を見てみましょう。 lumen

私はフリーで写真家を生業としているものです。 私が提供した写真の一部が無断で様々なサイトに掲載されており、著作権を侵害しております。私自身はサイトを持っておりませんが、許可を得て掲載している写真は以下のサイトのみとなっております。その他は著作権を侵害している状態となっておりますので、対処をお願いします。

この内容が正しいものでしたら、確かに有効なDMCA申請です。 しかし違和感があります。この写真家の名前でのDMCA申請はこの1件しかありません。写真家を生業としている人が、それほど特徴的ではない1枚の写真だけを問題視してDMCA申請する理由が思いつきません。

問題とされた画像をGoogleで画像検索すると、相当量のサイトが使っています。しかし特定のニュースサイトの1記事だけに許諾を出して、特定の1ページだけを消そうとするでしょうか。これはおかしいです。

では、実際に消されたページを見てみましょう Hi-Bitがフレッツ光のサービス卸でまた行政指導。NTTを装う電話勧誘には要注意

この記事だけがなぜか消されたわけです。

さて、ここでこの記事で書かれている内容「とあるプロバイダの悪評」を検索してみましょう。

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検索結果からDMCAで消えている記事が多いですが、これらは今回のでじねこ.comさんの記事ではなく、別のURLです。 10分ほど調べましたが、5ページ消されている事を発見しました。

DMCA悪用の手法例

例として1つ見てみますと、 sshot-4
Yahoo!知恵袋に記載された文章が自分のブログのコピーだということで申請が出されています。

Yahoo!知恵袋の質問は「2009/9/13 18:50:14」に投稿されています。この方のブログ記事は「2009-08-23 21:00:00」に投稿されています。 確かに知恵袋への投稿よりも前ですね。 しかしこの方のブログは「Toppa!をつかっています。」という1記事だけが公開されたまま7年放置されているにもかかわらず、しっかりとパクられるとはどういう不運な方なのでしょう。

他の申請も見ると同様に1記事のみのブログか、他に3-4のゴミ記事だけがあるブログばかりでした。 偶然、ブログで1記事だけまともに書いたらそれがパクられるなんて、よほど不運な方ばかりですね。 しかも消された記事が公開された日時はまちまちですが、「とあるプロバイダに関する悪評」のページに対する著作権侵害の申請は、ほぼ同時期に集中しています。

これは、「とあるプロバイダ」の悪い記事を書くととても不運になる、もしくは 「特定の話題に触れた記事をDMCA申請で消すために 過去の日付に投稿したことにできるブログサービスを使って 消したい記事よりも前に記事が存在した事にした のどちらかということでしょう。

「とあるプロバイダ」つまり株式会社Hi-Bit(ハイビット)の光GIGA(光ギガ)やToppa!というサービスの悪評記事が色々な方法でDMCA申請されて検索結果から消えている事、そして今回のフリー素材で消えたとされる記事もそのプロバイダの悪評記事で同じ時期にDMCAという手法を使って消えた事、それらから考えますと、画像の著作権侵害ではなく何かの意図があると考えるのが自然です。

逆SEOの問題

検索結果に現れた悪評を問題視する企業があるのは当然です。 そうならない事を目的のひとつとして、好評の話が多く出るように企業活動を行うのはまっとうな事でしょう。

しかしそれは簡単な事ではありません。時間もかかります。時間とコストに耐えられないと、一部の企業は検索結果での悪評隠しを専門にした会社に外注する場合があります。

たとえば、良い評判のページの順位を上げて相対的に悪評のページを下げる「逆SEO」と呼ばれる施策や、虫眼鏡SEOと呼ばれるYahoo!の関連検索を操作するサービスも多くあります。2chやソーシャルメディアでの悪評隠しのサービスも存在しています。

これらの手法・サービスが問題なのか、問題が無いのかはここでは言及しません。 しかし最近、より効果的かつ簡単な方法としてDMCA申請を使った悪評削除が行われだしています。

この手法は悪です。 著作権を守るための仕組みを悪用して、権利者を偽装して自社に不都合のある情報へ到達する動線をWeb上から消すのは許されない行為でしょう。

こういう事はどうにか防ぐことを考えなくてはなりません。

DMCA対策

今回、DMCAで全く問題が無いページが削除されるケースを見てきました。 これはひとごとではありません。上で見ました通り、フリー素材を使っていない普通のテキストの記事も消されています。

貴方の書いた記事も、全く問題が無いにも関わらず虚偽のDMCAで潰されるかも知れないのです。 ではこの状況にどう対応するべきでしょうか。

まずは、自分のコンテンツが消されていないかを確認することが必要です。

DMCA申請が出されると全て公開、保存されます。 それはこのサイトで確認が可能です。 定期的に自分のサイトを確認して虚偽の申請がされていないか確認しましょう。

また、Google Search Consoleに登録してメールアドレスを登録しておけば、新規のDMCA申請があった場合にはすぐにアラートが届きます。

そして、消されているページがあった場合、まずはそのページが本当に問題があったのかを確認しましょう。 他者の著作物を一部使用していてDMCA申請がで消された場合でも、そのコンテンツがフェアユース、問題が無い著作物の利用だった場合には再掲載がされます。

フェアユースについては、このページに詳しく記載されています。 「フェアユース」とは - Legal ヘルプ 自分のコンテンツ利用が該当しないかをまずは確認して、該当している場合は「Counter Notice」をしてください。

そしてこのDMCA申請が悪質な意図で行われたと確信できるものでしたら、検索結果への再掲載だけではなく、偽装した団体と戦うべきだと私は考えます。

いま、DMCAには問題が多く存在していますが、簡単に解決されるものではないと思います。

当然の前提として著作権は守られるべきです。 そのためにデジタルミレニアム著作権法は必要な法律でしょう。 デジタルミレニアム著作権法の元では、インターネット上の著作権侵害に対応するために検索エンジンは著作権侵害をある程度の短期間で消していく必要があるとされていますが、その申請は毎日200万件以上が全世界から寄せられていて、それに対して正確な審査を行うのは現実的ではないのが現状と考えられます。

インターネット上でも著作権を守られる体制は必要ですが、それを全て正しく行える状況にはなっていないのです。 以上の事から、疑わしいものはとりあえず削除して反対声明があったら戻すという体制になっていることは、しかたがないことと思います。

毎日増え続けるインターネット上での著作権侵害という問題に対して、早々にこの問題が解決するとは思えません。

しかしDMCAが悪用されるようになると、特定の情報をインターネットで到達できなくなります。それはインターネットにとって大きな問題です。

DMCAの悪用はどうにか防がなくてはなりません。

DMCA申請された情報は全て公開されることになっています。それは悪用を減らすための目的もあると思います。どうにかこの情報を有効活用して悪用を防ぎたい所です。 公開された情報を監視して、悪質な利用があれば声を上げていくことができればそのような悪用は行いづらくなるはずです。

DMCAは著作権を守るためには必要な仕組みです。しかしそれは完璧な仕組みではなく完璧になるのも遠い事です。そして悪用されると非常に危険です。

もし、あなたのコンテンツに対するDMCA申請を受けましたら、それがDMCAの悪用ではないのか?と考えてみてください。そして悪用だと確信できましたら、ソーシャルメディアやブログなどで声を上げてください。 見つけましたら、私も協力したいと思います。

インターネットと著作権を守るためにできる事として、悪質な会社・人による制度の悪用はどうにか発見、駆逐していきたいですね。