悪質なSEOが新医療広告ガイドラインの抜け道になる問題

医療広告ガイドライン

2018年6月1日、ネット広告に関する新しい医療広告ガイドライン(pdf)が施行されました。

これにより医療関連のネット広告の規制が強化された他、医療機関のWebサイトも一種の広告として扱われるようになり表現や訴求内容の制限が強くなる、など大きく変化しています。 広告やソーシャルメディア等による医療機関への集客方法が大きく制限されるようになる一方、いわゆる「SEO」は今回のガイドラインで言及されていません。そのため医療関連の集客のためにSEOが活用されるケースも増えていくと考えられます。

今回、最新の状況を調査しましたところ、非常に問題あるものも見られるようになっていましたのでこの記事でご紹介したいと思います。

とあるリンクスパムサイトとその問題点

検索結果の順番は非常に多くの要素で決まりますが、そのうちの大きな要素として「外部リンク」があります。 主要検索エンジンのアルゴリズムでは、より多くの価値あるページからのリンクを受けた数が多ければ多いほど順位が上がるようになっています。そのリンクを増やすためにリンク供給用のサイトを自分で作り、その「人工リンク」を順位を上げたいページに集める事で検索順位を伸ばそうとする行為、「リンクスパム」がスパマーの間で多く使われています。

これは検索エンジンのガイドラインでは禁止されていることで、検索エンジンへの通報などを行うことで逆に順位を下げられる措置が取られることもあります。 検索エンジンの監視も強化され続けているため最近は減りましたが、やはり効果があるスパムですのでまだまだ使われているのが現状です。

では最新のリンクスパム用サイトの一例をご覧ください。

これは、2018年4月に公開されたリンクスパム用サイトの記事で、癌について書かれています。 記事タイトルの「移転防止」は「転移防止」の誤りでしょうか?そのような誤りも含まれ適当に書かれた文章が中心となっています。 この記事の「がん治療でNK細胞療法」の部分がリンクになり、医療法人輝鳳会の「がんのクリニック」というサイト(魚拓)へ飛ばされています。

このサイトは「ruraltexasantiques com」というドメイン上にありますが、これは過去に使われていた米国のイベント情報が掲載されていたサイトのドメインが期限切れになったものが再取得されて、リンクスパムサイトに生まれ変わったものです。

同様の中古ドメインを利用したこの医療機関のためのリンク供給用サイトは大量に存在しています。15分ほど探しただけで下記の21サイトが発見できました。

  • (魚拓)がん治療の種類 | 手術と放射線治療、NK細胞療法について説明します
  • (魚拓)NK細胞療法と抗がん剤は組み合わせてもいいの? ? NK細胞にまつわるさまざまな役立つ情報をご紹介します
  • (魚拓)NK細胞療法の効果と副作用の真実 ? NK細胞療法についての情報
  • (魚拓)がん治療の方法?放射線とNK細胞療法? ? がん治療に伴うさまざまなポイントについてご紹介します
  • (魚拓)がんのNK細胞療法を詳しくご紹介 | NK細胞療法について詳しい情報をお伝えします
  • (魚拓)NK細胞療法によってどんな効果を期待できるのか ? NK細胞療法について、その効果を紹介します
  • (魚拓)放射線とNK細胞療法の組み合わせ ? 放射線とNK細胞療法の組み合わせで期待できるがんの治療について
  • (魚拓)抗がん剤治療とNK細胞療法 ? NK細胞療法と抗がん剤治療について
  • (魚拓)どんな病気に役立つ?NK細胞療法に期待できる効果 | NK細胞療法についてのさまざまな可能性をご紹介します
  • (魚拓)どうしてがん治療にいいの?NK細胞療法に期待できる効果とは ? NK細胞療法について紹介します
  • (魚拓)NK細胞療法の特徴とメリットのまとめ ? がん治療に有効なナチュラルキラー、NK細胞療法の特徴やメリットなどについて
  • (魚拓)NK細胞療法の特徴について ? NK細胞療法の治療についてお話します
  • (魚拓)がん治療にはNK細胞療法と手術でアプローチがいい? ? NK細胞についてとがんの治療の大切さをお伝えします
  • (魚拓)がんと闘うNK細胞の働き ? がんの治療法や予防に関するさまざまな役立つ情報をご紹介いたします
  • (魚拓)がんの治療方法について ? がんの治療方法についてご紹介します
  • (魚拓)NK細胞療法のメリットとデメリット ? NK細胞療法について、メリットやデメリットなどを説明します
  • (魚拓)NK細胞療法は体に優しい?気になる効果と副作用 ? がん治療に役立つ情報をご紹介します
  • (魚拓)がん治療に効果的なNK細胞療法とは ? がん治療に対するさまざまな情報をご紹介いたします
  • (魚拓)NK細胞療法の効果と副作用について ? NK細胞療法について分かりやすくまとめました
  • (魚拓)NK細胞療法の特徴と得られる効果 ? NK細胞療法の特徴や得られる効果などについて
  • (魚拓)がん治療はNK細胞療法と放射線治療を組み合わせてもいい? ? NK細胞療法について

これは、がん治療の中で保険が効かない自由診療である「NK細胞療法」に関連する検索キーワード検索順位を上げて集客するための取り組みと考えられます。 手法の詳細から見ましてSEOスパム会社に依頼されたものと考えられますが、そこそこ高価な中古ドメインを大量に1つのサイトへのリンクのためだけに使うわけで、相当額の費用がかかっていると推測されます。 そしてこれがどこまで影響したかはわかりませんが、現段階では実際に多くのがん関連の検索語句で上位表示を実現出来ていることが確認できました。[NK細胞療法]でも1ページ目に表示され、[十二指腸がん]という病名の検索でも3位に表示されています。

「NK細胞療法」は高額な自由診療ではありますが、違法ではありません。がんの自由診療の問題性が指摘されることもありますが、私は専門ではありませんのでその問題の有無はここでは論じません。

また、今回使われた手法である人工リンクによるリンクスパムは、前述の通り逆効果になることも多いため弊社では行っていませんが、検索エンジンのガイドライン違反であっても違法ではなく、問題とするのは検索エンジンであって、私がここで問題と言及するべきものとは思いません。(医療機関が公式サイトでハイリスクなスパムをしてレベルが低いなあとは思いますが)

しかし、ここで20サイト以上が作成されたサイトは、医療情報を扱うにも関わらずあまりに低品質なものでした。


がん治療の手法として多くの癌では統計的に最も効果的となる場合が多い標準治療である抗がん剤治療のデメリットだけを強調した主張や


抗がん剤との組み合わせではなくNK療法のみを推奨する主張なども見られます。


標準治療のデメリットを過剰に煽る内容、かつ粘液療法(免疫療法のタイプミス?)という誤った記載をそのまま公開するような適当さも多く見られます。


NK細胞療法を「副作用が無い」と虚偽を記載した問題がある内容や


病院選びの体裁の記事で特定医療機関を「推奨サイト」として誘導する新医療広告ガイドライン違反も見られます。

このように、スパムサイト群が発信する医療情報はインターネット上の害悪だとわたしは考えます。 害悪をインターネット上に流布することで集客に役立てようとするSEOが、新医療広告ガイドラインの抜け道として行われていることに怒りを感じます。

このスパムサイトは2018年4-5月に作成されています。時期から考えて新医療広告ガイドラインによって集客手段が限られてしまったため、新しい方法としてSEOスパムが選ばれたのではないかと考えます。

たとえ国の規制で困ったとしても、問題ある集客を行うのは医療機関としてモラルに欠けるのではないでしょうか。 そしてそれらを実際に引き起こしたSEO会社、SEOの専門家はインターネットのインフラである検索に関わる者としてあまりに大きな問題があると私は考えます。

医療・健康情報の検索と医療機関のSEO

日本のインターネットは問題ある医療・健康情報に満ちあふれていましたが、2016年後半のWELQ事件以後、明らかに流れは変わりました。 2017年12月のGoogleによる医療・健康関連の検索結果改善の発表以後、2017年末から直近まで何度もアルゴリズムの調整がかかり、多くの医療・健康に関わる検索結果からは信頼性に欠ける情報が駆逐されてきました。私は何千という医療・健康関連の検索結果を追い続けていますが、2017年12月6日の劇的な改善以後、2018年1月、3月、4月、5月と毎月のように大規模な医療健康系に特化したアルゴリズム調整がされているのを確認しています。その度に検索結果はより良いものに改善されてきました。 もちろん現段階でも問題は残っていますが、半年前に比べて別の検索エンジンかと思うほど素晴らしい改善がなされています。

インターネット上の医療情報は浄化が進んでいます。 その流れの中、2018年6月1日から有効になった医療広告ガイドラインは素晴らしい動きです。これによって更にインターネットでの医療情報はより参考にしやすいものになるでしょう。

しかし問題ある医療情報をインターネットから減らすこの網には明らかに穴があります。その穴のうち一つはSEOです。これは医療「広告」ガイドラインであって、SEOはあまり考慮されていません。 SEOをすべて禁止することは難しい事でしょう。ページのタイトルを考慮することや検索ニーズがある情報をコンテンツにすることなどを禁止するなどは現実的ではないように複雑な問題です。しかしSEOによる集客を無条件で許可してしまう事は問題の多くを残してしまいます。

今回ご紹介したケースは検索エンジンのガイドライン違反ですので、おそらくは近いうちにGoogleによって何らかの対処が行われるでしょう。 しかしこれが、検索エンジンのガイドライン違反とならないSEOだった場合はどうだったでしょうか。 たとえば、WELQには明確な検索エンジンのガイドライン違反はありませんでしたが、圧倒的なコンテンツ投下量を活かしたSEOでモラルがない情報を拡散したことが問題になりました。

そして現状、検索エンジンは個人など小規模な団体による医療・健康情報などは検索で上位表示されづらくする方向で調整していますが、マスメディアや国に認可された医療機関などによる公式なサイトによる医療情報は高く評価しがちです。

おそらく今後、医療広告ガイドラインによって集客手段を失った結果、検索エンジンが評価しがちな医療機関等の公式サイトによる、検索エンジンのガイドラインに違反しないSEOが問題になるでしょう。

今回の医療機関の発信する情報や提供する診療が良いのか悪いのかは私にはわかりません。しかし、公式な医療機関の発信する情報が必ずしも正しいとは言えませんし、その情報の順位はSEOによってコントロールすることは十分に可能ということは、今回見られた通りです。

新医療広告ガイドラインによって使えなくなった広告費が問題あるSEOに投下される流れが起きた場合、医療情報はまたインターネットで使いづらくなるでしょう。

インターネットから問題ある医療情報を駆逐するために

この状況に対して私たちは何ができるのでしょうか?

一つは、検索エンジンに評価されがちな医療機関が正しい情報発信を強化していただくことが一番でしょう。悪貨に駆逐されるまえに良貨を増やすことが一番望ましい動きです。 また、SEOが念頭に置かれた新しい医療情報のガイドラインも必要とも考えます。

しかしそれらは一朝一夕で実現できることではありません。

医療機関による正しい情報発信や国に期待して待つだけではなく個人に出来ることはあると思いまして、私はこのブログ記事を書いています。 ブログやソーシャルメディアでの問題提起でなくても、厚生労働省関係の通報フォームや、検索エンジンへのフィードバックも価値になるはずですし、身近な騙されそうな人に警告する事は最も重要な事だと考えます。

ネット上には多くの悪意があります。そしてその悪意は大きなお金が動く医療情報には特に集中しがちです。 2018年6月1日に施行された医療広告ガイドラインはインターネット上の医療情報に大きな変化をもたらすものでしょう。そのほとんどは素晴らしい変化のはずですが、今回見られたような新しい悪意が生まれる部分も必ずあります。 インターネットの悪意への姿勢を考え続けていくことが必要だと私は考えます。