検索エンジンはコロナワクチン誤情報をどう表示してきたか?各社の取り組みと問題点

コロナ禍への現状での最大の対抗策、ワクチン接種に関する誤解の広がりが大きな問題になっています。
コロナウイルスやワクチンに関する誤解は、通常の人間関係での口コミなど様々な経路で伝わるでしょうが、ネットが主な経路というケースも少なくないでしょう。

どのような人々がワクチン接種をしたがらないか独立行政法人経済産業研究所が2021年4月に調査したデータがあります。

[PDF]どういう人々が新型コロナウイルスのワクチンを接種したがらないか:インターネット調査における検証

 この調査によると「インターネットの検索エンジン」を新型コロナウイルスの情報源として最も重視している人はテレビの次に多く、そして比較的接種を忌避する傾向が強いことが明らかになっています。

実際に、様々なデータで、非常に多くのコロナ関連の検索が行われていることがわかります。

これはGoogle トレンドでの[コロナ][コロナウイルス][ワクチン][コロナワクチン]の検索動向の推移です。上は2020年1月から下は2021年1月から今までの検索数を出しています。

Google トレンドによるコロナ・コロナワクチンの検索数推移

コロナ禍が始まった2020年春にコロナについての検索が非常に増えました。いくつかのデータをもとに推測すると、最も検索された時期の2020年4月には[コロナ]という検索は日本のGoogle 検索で1日60-80万回以上の検索があったと考えます。
2021年になるとワクチン関連の検索が増えており、特に7月以後増加し、[コロナ]が最も検索された時期の17%ほどの検索量となっており、毎日十万回以上検索されていると推測できます。
コロナおよびコロナワクチンの情報はインターネット検索を通して非常に多く求められているのです。

 

これらのことから、ワクチン接種によるコロナ対策が進むためには、Web検索でも誤解よりも正しい情報により早くより多く触れやすくなることは極めて重要といえます。

 

インターネットでの情報収集の中心になる検索エンジンはどのようにコロナワクチン情報を伝えているのでしょうか。

日本でのコロナワクチン関連の検索のこれまでと現状、そして大きな問題をこの記事でまとめます。

 

コロナワクチン関連の検索結果はどうあるべきか

コロナワクチン関連の検索結果はどうあるべきでしょうか。
誤情報が出ずに科学的に正しい情報が主に検索されるべきことは当然でしょう。ただ、このことは単純な話ではありません。

Googleは自社サービスでのコロナ関連情報の取り扱いについてこのように声明をだしています。

japan.googleblog.com

検索結果上部でのGoogleが直接コロナ関連の情報を提供することや、Google 広告やYouTubeなどの製品上では誤情報の削除を厳格に行っています。

新型コロナワクチンに関する新たな脅威や悪用への対策についても、すでに対策を開始しています。たとえば、2020 年 10 月には COVID-19 に関する医学的に誤った情報に関するポリシーを拡張し、YouTube に投稿された米国疾病対策センターや WHO などの保健当局のコンセンサスと矛盾するワクチン関連コンテンツを削除しました。また、危険な、もしくは誤解を招く新型コロナウイルス感染症に関する医療情報動画も 70 万件以上削除しています。加えて、Google 広告、Google マップ、Google Play 等を含むその他の製品全体でも、新型コロナウイルス感染症に関する有害な誤情報を継続的に削除しています。

 

製品全体で「新型コロナウイルス感染症に関する有害な誤情報を継続的に削除」していると言及されています。

実際にGoogleの提供するYouTubeでは科学的に誤った情報は誤情報を流布する人たちはすぐに削除されるYouTubeでの情報発信を諦めて他プラットフォームに逃げているという話が聞かれます。ほとんどのGoogle サービスではコロナ関連の誤情報の削除は十分に行われています。完璧ではありませんが、現実的な範囲で最善の対策が行われていると私は考えます。

しかし上記の製品名の羅列にはGoogle最大のサービスの「Google 検索」が含まれていません。
そして実際に、Google検索では、コロナ関連の誤情報の削除は確認出来ていません。

こちらはGoogleで[コロナワクチン 卵巣]と検索した際の、24~26位の検索結果(2021年7月30日)です。

[コロナワクチン 卵巣]24-26位検索結果。誤った情報が表示されている

コロナワクチンによる不妊は河野大臣のブログなど様々な場所で明らかな誤りが言及された誤情報です。しかしその誤情報がいまも検索結果に表示されています。

YouTubeで同様の情報が発信された場合には早期に削除される内容ですが、Google 検索では削除されることはありません。
これは、主要検索エンジンが重視している公平性・透明性を担保するためと考えます。

Googleなど主要検索エンジンは、(合法であるかぎりにおいて)特定の主張内容・思想・イデオロギーという理由で検索結果で有利・不利に扱ったり削除しません。
インターネットに極めて大きな影響力を持つ大手検索エンジンが特定の思想を有利不利に扱うことの危険性はここで説明するまでもないでしょう。大手検索エンジンによる思想統制につながる情報操作の有無は世界中の専門家が監視し続けています。日本語の検索結果は私もその観点で多くのデータを確認しつづけています。しかし(最低でもGoogleにおいては)これまでその証拠が明確に発見されたことはありません。国家から検閲などを求められたGoogleが中国市場から撤退したことも記憶に新しいことです。そのくらい厳格に遵守されているポリシーです。

コロナ禍の世界的な衛生の緊急事態では、誤情報も含めて平等に扱うことは望ましくないという考えもあるでしょう。ただ私は現状の検閲を行わない検索エンジンを支持します。たとえそれが必要な場合でも、その判断を一企業である検索エンジンに任せるべきではないと考えています。検索エンジンに検閲を求めるのであれば、それは正式な法律に基づくものであるべきです。たとえばドイツでは法律でナチスドイツを賛美する情報の発信が規制されていますが、ドイツの検索結果ではそのような情報は直ちに検索結果から削除されますし、それは問題視されるものではないと考えます。検索エンジンが検閲するのであれば、それは適切な法律に基づいて行われるべきです。

検索エンジンは、インターネット上の情報の大半がワクチン推進であり、それが科学的に正しいものと社会的合意がされていても、反ワクチンの思想を削除することはしません。
ただそれを放置しているわけではありません。「コロナは嘘」「ワクチン接種で数年後に死ぬ」という誤った情報と正しい情報を平等に扱うと、誤った情報の方が高く評価されがちという傾向もあるからです。

現在、多くの検索エンジンでは検索結果でのクリックを始めとしたユーザの行動を機械学習などを通して検索順位に反映させています。そこで考えてみてください。あなたがコロナワクチンについて検索をした際に

  1. ワクチンは感染拡大防止に有効です | 厚生労働省
  2. ワクチン接種でマグネットパワーを得て5Gで洗脳される3つの証拠

このように情報が並んでいた場合、あなたは1をクリックするでしょうか?

多くの方は1のページからは得る知識は無いと判断して、この荒唐無稽な2が何を言ってるのか確認しようと半笑いでクリックするのではないでしょうか。当然ながら、人は当然の内容をクリックせず、知らない情報をクリックしがちです。

そのような行動が重なって、深刻な健康領域などの検索ではデマが上位表示されがちになる傾向があります。実際、2016年頃まではGoogleで[インフルエンザ予防接種]と検索するとこのように表示されていました。
[インフルエンザ 予防接種]2016年段階の検索結果。誤った情報が上位表示されていた

「刺激的な内容がクリックを集めた結果、表示内容が偏る」状態は、検索窓のサジェスト、関連検索などでよく見られます。誤った内容でも一度興味が集中してセンセーショナルな内容が表示されると、サジェストを見た人がクリックして人気が集まりずっと表示され続けることになります。このような状態にしないため検索エンジンは様々な対処を行い続けています。

 

誤っている情報でも検索エンジンは削除できず、かつ偏ったユーザの行動が発生するという問題も踏まえて、検索エンジン各社はバランスの良い検索結果を提供するためにアルゴリズムを調整し続けています。

さて、では実際に検索エンジンはどのようにこの問題に対処を行っているか、日本の検索エンジンで圧倒的なシェアを持つGoogleと、2番目に使われている検索アルゴリズムを持ったMicrosoft Bingの動きを確認してみましょう。

 

Google コロナワクチン検索結果の改善と現状

Googleのコロナワクチン検索結果の現状

世界的にも日本国内でも圧倒的なシェアとリソースを持つGoogleは、コロナワクチン関連でも高度な配慮をしています。

これは8月4日に東京都港区で[コロナ ワクチン]と検索した検索結果です。

Googleの[コロナワクチン]検索結果例
Googleが収集した明確に正しいと判断できる情報と厚生労働省など政府機関による情報を中心に、コロナ関連専用の検索結果が表示されます。

これは同検索結果の下部までの状態です。

Googleの[コロナワクチン]検索結果の構成要素


通常の検索結果ではクローラが収集した情報をアルゴリズムで順位付けして掲載しますが、[コロナ ワクチン]検索結果ではあまりそのような情報は掲載されていません。黄色い部分はそのようなアルゴリズムとは全く異なる、Googleが独自にまとめた情報を掲載されています。

下部には通常の検索結果が見られますが、顕著な特徴が見られます。

Googleの[コロナワクチン]Web検索部分の上位表示サイト

上から厚労省、東京都港区、東京都港区、首相官邸、福山市、川崎市、横浜市、広島県、松江市、と政府機関もしくは地方自治体しか表示されていませんでした。
なお2ページ目はさいたま県、鶴岡市、名古屋市、市川市、国立感染症研究所、堺市、松阪市と並び、やっと18番目に民間サイトのYahoo!ニュースが表示されていました。

遠隔の地方自治体の情報を必要とする人は少ないため、地方自治体が強調されすぎるこの検索結果は有益で使いやすいとはいえないでしょう。ただこの傾向は更に強化されています。

これは、[コロナワクチン]検索結果の6月以後の自然検索上位30位までに表示されていたサイトを並べたものです。

Googleの[コロナワクチン]上位表示サイトの推移

白色が政府機関および地方自治体の公式サイトです。自然検索では政府機関・地方自治体以外が徐々に表示されづらくなり、7月下旬からは1ページ目にほぼ表示されなくなっています。

Googleは、健康・医療など生命に関わる深刻な検索語句では「大手サイト・権威のあるサイトなど信頼性あるサイトを上位表示」されるようにアルゴリズムで調整しています。その結果、コロナ関連の検索結果では公的機関や医療機関、大手メディアなどの発信する情報が上位表示されがちになります。そしてコロナ禍以後、この対象となるキーワード範囲や信頼できるサイトの判定基準も、更に厳格に調整されるようになりました。

ここまで極端な状態になっているのは[コロナ][コロナワクチン]など非常に多く検索されるキーワードだけで、他のキーワード、たとえば[コロナワクチン 効果]などを検索すると、1ページ目から有名な大手メディアのサイトを中心とした民間のサイトが表示されています。ただコロナ関連の検索語句では、個人ブログなど誤った情報が掲載される可能性が比較的高いWebサイトはほぼ上位表示されなくなっています。

先に[コロナワクチン 卵巣]で誤った情報が表示されていることを例示しましたがそれも24位です。そのような誤った情報を探すのには何十も検索してやっと発見できるもので、徹底的な対策が現段階では行われていることが確認できます。

ただ、Googleは以前からこの状態ではありませんでした。

Googleのコロナワクチン検索結果 改善の取組

これはとある病院の公式サイトに掲載されていた記事の上部です。

とある病院の公式サイトの記事

「大量殺戮を目的とした生物兵器」「不妊」「エイズウィルスの遺伝子配列」と、完全に誤った説明が行われています。他にも同サイトには「コロナワクチンによる死亡は生命保険がおりない」「ワクチン接種後、短時間で死亡」など、既に多くの団体にファクトチェックされた明らかな誤りを主体とした情報が多く掲載されています。

この記事は、本年5月段階では[コロナ ワクチン 安全性][コロナ ワクチン 危険]などの検索語句で1位に表示されていました。

他の記事も含めて、このサイトは下記のような順位推移をしてました。

とある病院の公式サイトの順位。6月から大幅下落

4月から5月にかけて上位表示されるも、6月上旬に実施された「コアアップデート」で一気に検索圏外に。今では病院名など指名検索を除き、ほぼ検索結果に現れません。

ワクチンについての情報が調べられだしてから6月までこのような誤情報を流布するサイトが検索結果に多く上位表示されていましたが、みな上記のような推移で今はほぼ検索結果では見かけなくなってきました。

4月、5月段階でも既に情報を探す人はいましたし、Googleの検索結果を経由して反ワクチンの考えに染まった人もきっといることでしょう。ただ多くの人がワクチン情報を探すようになるまでには改善されています。
現段階のGoogleでは、検閲は行われていないため反ワクチンの情報は探そうと思えば到達はできますが、Google 検索をきっかけにコロナワクチンについて非科学的な誤った認識を持つ人は最小限に抑えられているはずです。
多く検索されるキーワードでは独自コンテンツも含めて正しい情報をまず伝える努力をした上で、アルゴリズムの改善を繰り返してインターネットの自由を守りつつ良い状態を作ろうとするGoogleは、現実的に可能な範囲で最善の形でこの問題と向き合っていると私は考えます。

 

Googleのコロナワクチン検索結果 いまだ残る問題

ここまで述べてきました通りGoogleのコロナワクチン関連の検索結果は改善が進められ望ましい状態になっていると考えますが、やはり問題は残っています。

現段階で確認できる問題は、深刻な検索語句では「大手サイト・権威のあるサイトなど信頼性あるサイトを上位表示」というアルゴリズムが走っている上で「必ずしも大手有名サイトが誤った情報を出さないわけではない」ということが大きく関係しています。

Google[ワクチン 無意味]検索結果


これは8/4段階での[ワクチン 無意味]という検索結果ですが、3位にAmazonが表示され、このような書籍が掲載されています。この3位以外は厚労省や大手メディアなどによるワクチンの価値を説明する内容ですが、こちらだけは明らかに異なる情報が掲載されています。

他にも、8/4現在、Googleではこのようなページが上位表示されています。

Google Amazonを経由して情報が上位表示されている例

Amazonは明らかに「大手サイト・権威のあるサイト」であり、Googleのアルゴリズムは信頼性あるサイトと判断しています。しかし出版社を選ばず少しお金を掛ければ誰でも出版できてAmazonでも販売されます。その中でAmazonが信頼されるサイトとして深刻な検索で上位表示させることが望ましいとは考えがたいです。

先に、Googleは非常に素晴らしい状態を作られているということを記載しましたがまだ問題点は残っています。
ただGoogleは今回見てきた通り急速な改善を進めています。おそらく今後、アルゴリズムのさらなる進化でこのような問題も解決することでしょう。今後に期待したいものです。


ここまでGoogleの検索結果について書いてきました。

検閲のような対応が行えないためアルゴリズムでの調整を行っていること、世の中の大半の情報はコロナワクチンの正しい情報であるものの、反ワクチンや誤った情報が優遇される状態になりがちな問題を、Googleは改善を繰り返してその問題を最小化していることを見てまいりました。

では、他の検索エンジンはどのような状況でしょうか。

日本で2番目のシェアを持つMicrosoft Bingの状況を見てみましょう。

 

Microsoft Bing 誤情報を拡散する問題ある状態

Microsoft Bing(以下Bingと記載)は日本でどのくらい使われているのでしょうか。

検索エンジンの日本の検索数などのデータはしばらく公式発表が行われていません。そのため正確な情報とは言えませんが、多くのデータを収集・集計して公開しているStatcounterを参照しますと下記のようになっています。

Source: StatCounter Global Stats - Search Engine Market Share

Source: StatCounter Global Stats - Search Engine Market Share

全体では3-5%、デスクトップの検索だけでは7-11%のシェアを持っているようです。Bingは日本語検索では2位のシェアを持つ検索アルゴリズムです。

そのユーザはWindowsユーザに偏っています。Windowsでは標準状態ではBingが主に使われるようになっていて、様々な形で検索エンジンはBingを使うように推奨されます。

そのような方がコロナワクチンを検索するとどのような検索結果を使うことになるでしょうか。
これは8月9日段階の[コロナ ワクチン]検索結果です。BingもGoogle同様に、自社で収集した情報を掲載しています。ただGoogleに比べると内容は小規模にとどまっています。

Bingの[コロナワクチン]検索結果例

 

Bingのワクチン関連検索結果で特に見ていただきたいのは、関連キーワードです。

下図の(2)、(3)、もしくはその両方に掲載されるもので、ユーザが検索する文言など様々な基準で選定された検索語句が推薦表示されます。
Bingの[コロナワクチン]検索結果の構成
8月8日段階では、このような表示になっていました。

Bing8月8日段階の関連検索内容。ワクチン忌避につながるキーワードが羅列されている

最近このような状態になったわけではありません。

私は今年1月からほぼ毎日キャプチャを取っていましたが、このように変化をしていました。
Bing関連検索の推移前半
1月ころは多く検索される一般的なキーワードが推薦されていましたが、2月、3月からは徐々にワクチンを危険視する内容が増えていきます。

Bing関連検索の推移後半

5月以後、「関連キーワード」の大半は反ワクチン情報への誘導となり、いまもその状態は続いているのです。

Bingは特にクリック行動が検索結果に影響しやすい検索エンジンですが、先に説明しました「ユーザは当然の情報ではなく誤情報をクリックしがちな問題」に対する配慮が足りていない状態と推測されます。

更に8月8日現在Bingは、検索結果の最下部に到達すると自動で関連検索の検索結果を読み込む形のテストを一部ユーザを対象に行っており、多くの検索結果でこの仕様が見られます。

つまりいま、多くの人の環境では、コロナワクチンと検索窓に入力してスクロールするだけでこういう検索結果を見ることになります。
Bing、ある期間の[コロナワクチン]検索結果下部に表示されていた内容
[コロナワクチン]と検索する人に「ワクチンを絶対に打ってはダメ!人生の終わりが近づくよ!」「接種者の寿命は長くて3年」と強調する検索エンジン、それが現状の世界的大企業が運営する日本シェア2位の検索エンジンアルゴリズムです。

また、先にGoogleではもう上位表示されなくなった誤った情報を流布するサイトも、Bingでは様々な検索語句で上位表示されています。8月9日現在、[コロナウイルス ワクチン][コロナワクチン 意味ない][コロナワクチン 不活性化]などの検索語句では1ページ目に同病院の記事が上位表示されていました。他にもBingではコロナワクチン関連の多くの検索結果で明らかな誤情報の上位表示が多くあります。Bingを使ってコロナワクチンの情報収集をすると、少なくない人が誤った認識、コロナワクチンは大きな危険を持つと認識することになりそうです。

コロナワクチンを不安視する人が詳細情報を検索しようと[コロナワクチン 危険性]を検索することで様々な観点からのリスクが表示されるのは悪いこととは考えません。[コロナワクチン 生命保険おりない]と検索して、その誤解を正す情報が上位表示された上で、参考情報として誤った主張が表示されることも誤りとは言えません。

ただワクチンについて不安を持たない人も多く検索する[コロナワクチン]という語句の検索結果で積極的に少数派となる反ワクチンを強く推薦する状態は誤っています。反ワクチンを検閲すべきとは思いませんが、検索結果の主な部分では社会の主流であり、正しい情報が表示されるべきであって、それはワクチン推奨の情報のはずです。

なお、この状況は、Bingが多く使われている米国では多く見られません。
米国英語Bingの検索結果
これは英語・米国での8月9日段階の検索結果ですが、関連検索が表示されていません。また、様々なコロナワクチン関連の検索語句でも信頼される情報が主に表示されるようになっており、日本に比べると圧倒的に望ましい状態が作られています。

Bingは、Microsoftの声明によると米国で3割ほどのシェアを持っています。
先のStatcounterでは、米国のデスクトップ検索で10%ほどのシェアとされていますが、いくつかのデータから日本よりユーザ数は圧倒的に多いことは確かです。

一定のシェアを持ち収益性も期待できる国だけには誤情報が流布されないように配慮されているのでしょうか。米国に比べて利用者が非常に少ない日本では、リソースが投下されず改善が行われないことも理解できます。

しかしこのままで良いのでしょうか。

日本での検索シェアは3%程度。「3%」という小さい数字ですが、検索数にするならば少なくとも毎月3億以上の検索がBingで行われ続けていることになります。その中でコロナ関連の情報は少なくない比率のはずです。

今もWindowsではBingが推奨され、推奨を疑わず受け取ってしまう人が主にBingを使っています。推奨を迷わず受け取ってしまう人が、コロナワクチンを検索すると反ワクチン情報を推奨されつづけています。

Bingで誤った情報を流布されていることの影響は軽微ではないはずです。

更に、Bingは一部の検索エンジンにデータ提供を行っています。たとえば検索エンジンで世界4~5位のシェアを持ち、過去一年でも55%のトラフィック成長をしていると主張するDuckDuckGoは、独自アルゴリズムで日本語検索を提供している数少ない検索エンジンですが、Bingのデータを多く活用しています。そのため、DuckDuckGoの関連検索もBingと同じ状態になっています。

DuckDuckGoの検索結果

私は、検索結果下部からのフィードバックや、Twitter等でBingへフィードバックを行ってきましたのでこの状況を認識していないとは思えません。しかし改善は行われません。

Bingの問題はコロナ関連だけではありません。
たとえば[がん治療]と検索すると「アメリカでは抗がん剤が使われない」などの誤っている情報をもとに標準治療を否定して高額な自由診療へ誘導するページがが1ページ目に表示されるなど、医療・健康領域の検索の多くで問題が確認できます。

(参考:誤った噂を否定する大須賀覚先生の記事)

GoogleではWELQ事件を経てこの問題の多くは改善されましたが、Bingではいまだその改善はあまり行われていません。

日本でのBingは検索ユーザの健康と財産を守る対策が弱い状態でしたが、コロナ禍という緊急事態になり、その問題はより顕著になっています。

 

検索エンジンを監視する必要性

ワクチン接種を迷っている人は様々な情報に触れています。
現段階で日常的に触れられる情報はワクチン接種が非常に高い価値があるという正しい事でしょう。テレビ・新聞・ネット上の大半でも、多くの信頼できる専門家の発言や、多くの明確なエビデンスが公開されており、ワクチン接種はコロナ禍の対抗策として有益という考えが一般的です。きっと、ワクチンを忌避する人も日常的に正しい情報に触れることで接種を検討し始めている人も少なくないはずです。
そういう人が日常的に使う検索エンジンでワクチン忌避につながる誤った情報に触れ続けているのであれば、ワクチン接種率を伸ばすには大きな弊害となります。

反ワクチンの情報が発信されることは禁止されるべきでは有りません。ただそれを本来の情報量や評価を越えて強調して幅広く拡散するのは問題ですし、それを多くの人が使う大手検索エンジンが行うのであれば放置できない問題となります。

私たちはそのような大手検索エンジンを放置するべきではありません。


コロナ禍における検索エンジンの問題を多くの人に知っていただきたいと考えまして、この記事をまとめました。

コロナ禍の抜本的な解決に必要な事の一つは正しい知識だと考えます。そしていま私たちが知識を得る上で検索エンジンは大きな役割を果たしています。検索エンジンがより良い状態になることは、長期化するコロナ禍の対応を考える上で必要なことと考えます。

Googleは、以前は明らかに大きな問題を抱えていましたが改善が行われました。新しい問題を発見しても公式の窓口からフィードバックすると改善されることも多いです。今後も問題の改善は進むでしょうしある程度安心できる状態です。

ただ、Bingなど一部の検索エンジンはは明らかな問題を抱えつつ改善が行われません。更に日本でも利用者は多いはずですが、この問題点はほぼ言及されてきませんでした。

 

特にコロナ禍のような深刻な情報を検索するときは、その品質に注意し、問題を感じたときは声を上げていただきたいと考えます。この長い記事を読んでいただけるような方は騙されないものと思います。しかし、その検索結果は膨大な数の人が見るものです。
私たちの自由なインターネットが有益で安全であり続けるため、検索エンジンの問題にもっと目を向けて、問題に対して声を上げていくべきとわたしは考えます。